屋久島の苔に魅了されて
緑がきれいな季節がやってきました。この春、屋久島を旅して魅了されたのが、緑美しい「苔」です。
屋久島を代表する苔の名所が、白谷雲水峡。宮崎駿監督作『もののけ姫』のモデルになった場所ともいわれ、入口から1時間半ほど歩いてたどりつく通称、「もののけ姫の森」はすべてが苔に覆われた緑一色の世界です。道のりはそれなりにたいへんですが、そんなしんどさたちまち吹っ飛ぶくらい清らかな風景で、しばらくとどまって見入ってしまいました。
屋久島は花崗岩で形作られた島なので、栄養を蓄えた土壌には恵まれず、植物の種は木に着生して芽吹き、苔に含まれた水分で育ちます。森を潤すために苔はなくてはならないもの、そう思うとますます美しく目に映ります。
苔は植物の祖先とも言われて、日本には2000種類以上もあるのだとか。遠目にはもこもこした緑の絨毯に見えますが、実は色も形も種類豊富なのです。苔=日本庭園といった渋いイメージかもしれませんが、さわったり、近づいたりすると、とたん親しみがわいてきます。
すぐそばまで近づいて苔鑑賞
縄文杉に向かうトレッキングの途中、倒れた木にふさふさと自生する苔をそっと撫でてみました。水をしっとりとふくんで、ふかふかしてフシギな感触にワクワクしました。
さらにおもしろかったのは、近づいて苔をじっくり観たとき。水滴がまるで宝石のよう、欲張りに水をたっぷりとためこんでいてみずみずしく、生命力をつくづくと感じました。
遠目で見るともこもこの緑の絨毯なのに。角度を変えて見るとこんな世界がすぐそばで広がっているなんて。間近に潜んでいる小さな世界に、太古からつづく自然の営みを感じて、ちょっと感動を覚えました。
何事も同じ、いつも見慣れているものでも見方を変えれば、世界も変わるということでしょうか。わざわざ屋久島に行かずとも、いやもちろん素晴らしい場所なのでぜひ旅してもらいたいですが、苔は毎日歩いている道でもしょっちゅう出合っているんですよね。ただ見過ごしているだけで、実はすぐそばに大きな世界が存在している。
GWにめぐった京都のお寺でも苔の緑がとてもきれいでした。最近は苔玉もブームで、楽しんでいる女性も多いとか。滴る水やしっとりと濡れた緑は眺めているだけで何となく気持ちが落ち着いて、やっぱり何かしら癒しの効果があるのでしょう。
もうすぐやって来る梅雨は鬱陶しいけれど、この時期は苔鑑賞にはもってこい。水をたたえると美しさはグッと増します。ちょっと気に留めて、苔を探しつつ歩いてみるのもいいもの。日々の雑事で狭くなっていた視野がさーっと広がりますよ。
text & photo 宮下亜紀