 | 人間の奇妙さや再生する力を描いた異色ホラー |
――この作品は「第一回怪談ホラー企画」の最優秀賞を受賞した作品で、岸本監督は地元沖縄で作品を撮りつづけている人なんですよね。それで今作はスタッフ全て沖縄の方で、オール沖縄ロケ。ホラーですが、そんな怖くなくて、説明的でない斬新な演出など、とても面白かったんですが、田丸さんの映画を観ての感想は?
「沖縄は好きで仕事やプライベートでも何度も行っていた場所なんですが、今回の主な舞台である糸満市は初めてで、リゾート地の印象が強い沖縄じゃない、本物の沖縄が映像として出てたのに驚きましたね。沖縄の人たちの生活の場が舞台で、サトウキビ畑も初めて観ましたし。映画はおどろおどろしい話なのに、ロックがかかってたり、面白くて、映像の繋がりも時間軸がとんでたり、フラッシュバックやくりかえしなど、新しいアクセントでしたね。ホラーしてなくて、何か不思議なお話になってました。」
――初めて脚本を読んだ時の感想を教えてください。
「私はすごく怖がりで、ホラーとか怖いもの苦手なんですよ。それでホラー大賞作ってことでビクビク読んだんですが、何度か読むうちに、人間という生き物の奇妙さや、悩む人間の再生する力や、生き方の方向は人それぞれが決めるものだ、という前向きなメッセージを感じたら怖くなくなりましたね。漠然とした幽霊話じゃなくて、その人の持つ不安や罪悪感や恐怖が大きければ大きいほど、それが実際に存在しないたとえば霊やキジムナー(沖縄ではよく知られている妖怪。赤い髪で子供のような風体をしている)として出てくるという。ある意味、心の反映であるというところが面白かったですね。不安や悩みを抱えてない人はいないと思うので、普遍的な話でもあると思いました。」
――田丸さん演じる美咲(役名)は姉の子供を自分の不注意で死なせてしまったという罪悪感から沖縄に逃げるようにやってきた女性ですが、またそこでも錯乱した友人の元妻を恋人とともに殺してしまい、死体を隠蔽しちゃうんですよね。田丸さんが美咲の立場ならどうしましたか?
「う~ん。私は怖がりだから自首しますね。でも、美咲が自首しなかったのは、「どんな土地に逃げてきたとしても幸せに生きたいじゃない」って劇中のセリフにもあるように、トラウマを抱えて東京から沖縄にやってきた時点で自分の過去を消去したい、生まれ変わりたいという気持ちがあって、この先何人人を殺そうと何があろうと、不安で仕方がないけどこの現実の中で幸せに生きたいって気持ちがあったと思うんですね。段々おかしくなっていく恋人や友人を守らなくちゃいけない、今私が正論を訴えるよりこのまま行ってくれれば・・・と思ってたと思います。」
 | 感情を押さえる芝居とスイッチの切り替えを学んだ |
――美咲を演じるポイントは?
「最初美咲の芝居では不安で怖くてと、よく泣いてる演技をしてたんです。そしたら監督が「美咲は芯の強い女性だから、泣きたいんだけど、泣かない、みたいな強さを出したい」とリクエストされて、美咲のポイントが掴めました。不安でしかたないのに強くいようとする、本当は弱いのにない力を出そうとする、その健気さは尊敬しますね。今まではこうだと思ったら感情を全部出すような役が多かったんです。力芝居ですね。でも、美咲は全部出さない人で、あえて出さないか弱さとデリケートさを持った人で、感情を押さえる力加減を今回学びました。また、そこも美咲のポイントですね。」
――ホラーって怖がる表情の加減が難しいと思うんですが?
「デリケートでしたね。幽霊とかキジムナーを見て外面だけ怖いという表現じゃなくて、自分たちの幸せを壊そうとしてる何かが形として目に見えた時の言葉にできない不安というものが顔に現れていたら、オーバーアクションしなくてもその表情が充分恐怖だと思いました。美咲は早苗(役名)と関わるのが不安でたまらない。その美咲の不安を表現するだけで良かったんです。」
――撮影は東京と沖縄を何度も往復して大変だったみたいですね?
「去年の5月クランク・インだったんですが、同時期にテンポの早いドラマの撮影もしてて、バラエティもしてて、気持ちの切り替えをしないと辛い時期でした。沖縄を飛行機で発つ時には田丸になりと、一つ一つドアの開け閉めをしっかりして上手に切っていくことが今回の課題でした。」
――今スピリチュアルなこととか流行ってますが、田丸さんは霊の存在って信じてる人なんですか?
「(笑)。すごい怖がりなんでね。信じたくないんだけど、いるんだろうな、とは思いますけど。未知ですね。えっ敏感じゃないですよ。たぶん鈍感なのかも(笑)。今回も火葬場とか人が近寄らない沼とかで撮影しましたけど、敏感だと演技してられなかったと思いますよ。」
――ああ、あの沼は気持ち悪かったですね。
「あの沼は生ぬるくって、でも場所によっては冷たくて、ずぶずぶ入っていく気持ち悪いとこで、朝から晩までいたんですが、監督がクレーンに乗って沼のうえを行ったり来たりして大掛かりな撮影だったんですよ。沼に静められる早苗役の方もスタントなしの命がけで、ダイバーの方たちもいましたけど、緊張の撮影でした。でも、スタッフが沖縄の方たちばっかりだったので暖かくておだやかで、ホラーと思えないような陽気な現場だったのでずいぶん助けられましたね。」
 | 黒い穴からの抜け出し方 |
――そういえば、早苗が鎌を持って切りかかってくるシーンもすごかったですね。
「あすこは皆の感情が爆発するシーンで、雨降りでぬかるみだらけで衣装がドロドロになるからNGが許されないシーンで、しかもほとんどが長廻しで、緊張と脅迫観念の高いシーンでした。」
――そういうシーンで役に入るって大変なのでは?
「ええ。ああいう激しいシーンって自分のポジションを見失いがちになるんです。冷静でいなくちゃダメなんだけど、どうしても黒い穴に入っちゃう。そこに入らないようにするにはパワーがいるんですね。今回みたいなオールロケは初めてで、自分と役どころと環境を見極めて役に入ることを学びました。」
――その穴から抜け出すにはどうするんですか?
「そうですね。沖縄の街を美咲の目や気持ちになって散歩したり、美咲の時間を作ることで抜け出たり、ちょっとしたきっかけで出ることがあるんです。たとえば台本を本番前に読んでる忍成(修吾)君の声が耳に入って、そのセリフが優しかったり、言って欲しかった言葉だったりしたり、また、オリオンビールを見ただけで抜けだせたこともありましたね。」
 | かみ合わないからこそ成立する芝居の面白さ |
――へーっ。でも、日常生活でいやなことがあってもふと、空を見上げて元気になったりしますよね。
「ええ。体調や相手役とのかみ合いにもよります。相手役とは合いすぎてもダメ。足の踏み出し方がバラバラだからこそ、お芝居が成立することもある。そのあたりはお芝居しながら面白くて毎日毎日今日はどうかな?と楽しみでした。どうかみ合うのかな?違う方へいくのかな?って。」
――合いすぎてもダメなんですか?
「カップルでもお互い違う趣味や考え方があるからこそ合うっていうのがあるし、あまりかみ合いすぎると流れてしまう部分があってアクセントのないシーンになっちゃうんです。トーンの違いやかみ合ってないのが、又日常だったりするんですよね。」
 | 忍成君の一瞬でオンの演技にびっくり! |
――ふ~ん。なるほどねー。共演の方はどうやって黒い穴から抜け出てたんでしょうね?
「忍成くんは集中力がすごいんですよ。(笑)。もう驚きで。私は黒い穴から抜け出すのが毎回の課題だったんですが、彼は急にオンができるんです。私は朝起きた瞬間からその芝居に行く用意をきっちり固めて、時間をかけて現場に行くんですが、彼は長セリフで感情が爆発するシーンを朝一で撮るなんてことも一瞬でオンになって出来るんです。0から10にいきなり上がれる集中力って簡単に持てるものじゃないと思うんですよね。私とは真逆の感情の作っていき方に新しい空気を体の中に入れてもらった感じでしたね。0から3上げるくらいでギャーギャー悩んでるフリしてちゃダメだと思いましたね。(笑)。」
――へーっ。大竹しのぶさんとか宮崎あおいさんみたいに一瞬にして役に入る方っていますものね。
 | 天然ってよく言われるんですけど・・・ |
――ところで田丸さんてテレビで拝見してたら、ちょっとストレンジな方かしら?と思ってたんですが、今のお話とか伺ってたら全然ストレンジじゃないですね。意外です。
「(笑)。天然てよく言われるんですよ。ものを知らないだけなんですけど(笑)。でも、自分でも外れてるな、と思うことはあります。監督に意見を聞かれて言うと、そういう考え方もあるのか?と驚かれることはよくありました・・・」。
――もともとモデルや女優志望だったんですか?
「小学校の頃から服が好きでファッション誌をチェックしてたんですね。でも、大阪の田舎(和泉市)だったし、モデルの仕事がよく分からなかったんです。この雑誌にこういう洋服を着て出たいなあ、と思ってたけど入口がわからなくて。それで雑誌のオーディションに受かってモデルになったんですけど、甘い世界じゃなくて、ポーズやブランドや服のことや、感情表現とか自分でたくさん勉強しました。でも、雑誌の世界って現実感のない綺麗なお伽噺の世界ですから、そのうちに生々しい感情を出したくなって、CMの仕事をして、感情表現を突き詰めていったら女優になっていたって感じです。今こう言ったらなるほどですけど、流されるままでしたね。」
――周りの人に恵まれるタイプじゃないですか? エラ張ってる人って周りにすごく助けられる相なんですよ。
「そうなんですか?(笑)。でも、すごい寂しがりやなんで一人じゃ生きていけないですね。好き嫌いもはっきりしてるんですが、自分の大切な人は何があっても大切にしたいですね。」
 | エンドロールはもうひとつの宝物 |
――日々心がけてることはなんですか?
「日常では健康ですね。食べて笑って寝る。3つのバランスを崩さないように気をつけてます。お芝居ではバラエティでもそうですが、現場の空気を大事にしてます。何かどこかで共演者とキャッチボールが出来るようにしたいと思ってますね。」
――では、最後に映画についてひとこと。
「新しい沖縄を知っていただけるいいきっかけになる映画だと思います。今はどう見ていただけるかすごく緊張感があります。この映画のエンドロールを見て感謝感謝でした。たくさんの人が集まって出来た作品だなぁって、私にとってこのエンドロールは宝物です。自分にとってのもうひとつのストーリーです。そんな大切な映画です。」
――ありがとうございました。
文・写真/一宮千桃