――長編を2本、短編を2本撮った今だからこそ感じる、監督業のおもしろさや難しさはなんでしょう?
「僕はもともと芝居の人間。芝居はインディーズなのでやりたいことをいくらでもできる。ただし映画は、やりたいことをいくらでもという訳にはいかないので丁寧にやらなければいけない、との意識が芽生えていった感じはありますね。昔は『映画をぶっ壊してやりたい』と思いましたが、伝わらないことをやっても仕方ない。今回は『伝えていくこと』を考えました」
――脚本作業の段階、あるいは撮影現場で「このヒトにこんなことをさせたい」と膨らんだキャラクターはいますか?
「宮藤(官九郎)くんが演じた鉄雄という役は、正直、小説にはそれほど出てきません。脚本を書いているときに、どんどん感情移入していって、結果的にけっこう登場する役になりました。あとは現場ですね。たとえば箕輪(はるか)さん。シナリオでは、ほとんど鼻水を垂らしているだけの役でしたけど、終盤にアドリブをやってもらってます」
――明日香に関しては、いかがですか?
「(明日香役の)内田(有紀)さんは、打てば響く女優。すごく対応能力の高いヒトなので、話し合っていくうちに、どんどん膨らんでいきましたね」
――確かに、内田さんの新しい一面に出会えたような気がします。
「現場に来たときには、もう(役が)できていたというのが、すばらしいですね。リハーサルの期間に、しっかり咀嚼してくれていたみたいです。ミスがないのが何より助かりました。彼女が出ていないのって、1シーンくらいしかないんですよ。ほとんど出ずっぱり。相当な精神力と集中力が必要なのに、さすがだなと。プロとしての貫禄を感じました。自分だったら、あの撮影を耐えることができないので」
――とくに宮藤さんとのケンカのシーンは圧巻でした。
「あれはリハーサルをやれたのが良かったですね。リハーサルで詰めたことを、現場でキッチリやってくれました。今回は事前に準備をかなりやったので、『恋の門』よりもずっと、現場に入ってからラクでした」
――鉄雄のキャラクターには、松尾監督自身を投影されたのでは!? とも想像できますが、なぜご自分で演じなかったのですか?
「鉄雄を演じるには、年齢が合わないですから。今回、なぜ出なかったかとよく聞かれますが、出演するような役がないんですよ。それに演出すればするほど、演技よりも正直、おもしろいんですね。演出に一生懸命になって、出ている場合ではなくなっちゃう。それに出るなら、少しじゃなくちゃんと出たい(笑)」
――具体的には、演出のどんな点がおもしろいと?
「今回はあえて懐(ふところ)に飛び込んで、人間をカッチリ描きたかったんです。人間がリアルに生きている芝居を撮りたかった。しかも集団劇なので、お芝居をつくるおもしろさが今まで以上にありましたね」
――ほとんどのキャラクターがコミカルなので、テーマや内容のヘヴィさに反して、深刻にならずに観賞できました。その入院患者たちには、モデルがいるのでしょうか?
「小説を書くにあたって、ネットですごく調べました。(入院を経験した)みんな、きっと吐き出したいものが何かあるんでしょうね。誰にも言えない悩みもあるでしょうし、ブログがたくさん出てくる。すごく詳しく書かれているので助かりました。そういうヒトたちのキャラクターを複合していったり、想像力で補ったり。実際、僕の芝居に出てくる人物はみんな、どこかヘンだったりもするので(笑)」
――不完全なヒト、弱さをもっているヒトに関心があるようですね。
「欠落を抱えているキャラクターに、どうしても惹かれちゃうんですよ。僕の子どものころのヒーローは、(『ゲゲゲの鬼太郎』の)ねずみ男と(『おそ松くん』の)イヤミなんです。なんでここまで卑しいのかと、笑っちゃって目が離せない。『仮面ライダー』は見たこともありません。唯一、『ウルトラマン』は好きですけど。なぜかというと、やられているとき、すごくせつない声を出す。あれを見て、不思議な性的興奮を覚えたような気がします(笑)」
――原作の小説にしても映画にしても、28歳の明日香の視点に不自然さをまるで感じませんでした。「ガールズ・ムービー」とも呼べそうな女性的な視点は、どうやって生まれたのでしょう?
「生むといいますか……昔から、男らしさには興味がないんです。“男らしくなさ”になんだか惹かれるんですよね。身体的なことでいうと男より弱いけど、対等に渡り合わなければいけない部分もあって。そういう(女性の)けなげだったり、儚かったりするモノが好きなんです。『大人計画』のオーディションでも、まず落とすのは男らしそうなヒト(笑)。男らしいこと、苦手なんですよね」
――それでは、ガールズ・ムービーというよりは「アンチ男らしさムービー」?
「僕の好きな映画に、『テルマ&ルイーズ』という女同士の逃避行劇があるんです。なんだか惹かれるものがあって、男同士のバディ・ムービーより好きですね」
――舞台となる精神科病棟は、現代を生きる人間にとって、どんな存在だと思われますか?
「よりカジュアルなものになってくると思います。ストレスがすごく多様化しているので。だって、お相撲さんまでストレス性障害になる時代ですから。ストレスをなくすことが大事なんでしょうけど、もう避けて通れないモノですね」
――“クワイエットルーム”については、いかがでしょう?
「『ここが自分の居場所』と決められているヒトは、すごく幸せだなぁと思います。僕自身、いつも足元がふらふら、フワフワで。毎日、違う仕事をしているし(笑)、『所在ない』のひと言なんですけど。普遍的なモノって、ホントにないような気がして。人間の立場もすべて多様化している時代だから、相対的に捉えていないと、簡単に足元をすくわれてしまう。確かさの実感が得られないから、心の病も増えていくのかなって気もしますよね。そういう意味からすると、“クワイエットルーム”というのはある種、象徴的な場所で。相対的な、流動的なモノのなかから、ホッと一瞬、止まっていられる場所でもあるんです」
――次回作についての構想は何かありますか?
「いろいろアイデアはあります。そのときのタイミングや予算に応じて、決めていこうかと。じつは最近ちょっと、老人のホラーってあまりないな、と思っていて。ホラー映画が好きでよく観るんですけど、だいたい若者がバンか何かでどこかに乗りつけて、セックスするころに何か出てくる(笑)。だから慰安旅行の老人が、目的地までなんとかたどり着いて、まだ恐い目に遭う、みたいな。長生きしたうえ、まだサバイバルしないといけない……って、あったら楽しいですよね(笑)」
取材・文/柴田メグミ