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Introduction

あえて懐(ふところ)に飛び込んで、
人間がリアルに生きている芝居を撮りたかった

演出家、劇作家、俳優、コラムニスト、エッセイスト、小説家……と、ジャンルを越えて活躍する稀代のクリエイター、松尾スズキさん。その彼が初監督を務めた『恋の門』から3年。待望の第2回長編作品が、芥川賞候補にもなった自身の小説『クワイエットルームにようこそ』の映画化だ。次なる映画のステージを目指し、脚本・監督の大役を果たした奇才の想いとは?

――長編を2本、短編を2本撮った今だからこそ感じる、監督業のおもしろさや難しさはなんでしょう?

「僕はもともと芝居の人間。芝居はインディーズなのでやりたいことをいくらでもできる。ただし映画は、やりたいことをいくらでもという訳にはいかないので丁寧にやらなければいけない、との意識が芽生えていった感じはありますね。昔は『映画をぶっ壊してやりたい』と思いましたが、伝わらないことをやっても仕方ない。今回は『伝えていくこと』を考えました」

――脚本作業の段階、あるいは撮影現場で「このヒトにこんなことをさせたい」と膨らんだキャラクターはいますか?

「宮藤(官九郎)くんが演じた鉄雄という役は、正直、小説にはそれほど出てきません。脚本を書いているときに、どんどん感情移入していって、結果的にけっこう登場する役になりました。あとは現場ですね。たとえば箕輪(はるか)さん。シナリオでは、ほとんど鼻水を垂らしているだけの役でしたけど、終盤にアドリブをやってもらってます」

――明日香に関しては、いかがですか?

「(明日香役の)内田(有紀)さんは、打てば響く女優。すごく対応能力の高いヒトなので、話し合っていくうちに、どんどん膨らんでいきましたね」

――確かに、内田さんの新しい一面に出会えたような気がします。

「現場に来たときには、もう(役が)できていたというのが、すばらしいですね。リハーサルの期間に、しっかり咀嚼してくれていたみたいです。ミスがないのが何より助かりました。彼女が出ていないのって、1シーンくらいしかないんですよ。ほとんど出ずっぱり。相当な精神力と集中力が必要なのに、さすがだなと。プロとしての貫禄を感じました。自分だったら、あの撮影を耐えることができないので」

――とくに宮藤さんとのケンカのシーンは圧巻でした。

「あれはリハーサルをやれたのが良かったですね。リハーサルで詰めたことを、現場でキッチリやってくれました。今回は事前に準備をかなりやったので、『恋の門』よりもずっと、現場に入ってからラクでした」

――鉄雄のキャラクターには、松尾監督自身を投影されたのでは!? とも想像できますが、なぜご自分で演じなかったのですか?

「鉄雄を演じるには、年齢が合わないですから。今回、なぜ出なかったかとよく聞かれますが、出演するような役がないんですよ。それに演出すればするほど、演技よりも正直、おもしろいんですね。演出に一生懸命になって、出ている場合ではなくなっちゃう。それに出るなら、少しじゃなくちゃんと出たい(笑)」

――具体的には、演出のどんな点がおもしろいと?

「今回はあえて懐(ふところ)に飛び込んで、人間をカッチリ描きたかったんです。人間がリアルに生きている芝居を撮りたかった。しかも集団劇なので、お芝居をつくるおもしろさが今まで以上にありましたね」

――ほとんどのキャラクターがコミカルなので、テーマや内容のヘヴィさに反して、深刻にならずに観賞できました。その入院患者たちには、モデルがいるのでしょうか?

「小説を書くにあたって、ネットですごく調べました。(入院を経験した)みんな、きっと吐き出したいものが何かあるんでしょうね。誰にも言えない悩みもあるでしょうし、ブログがたくさん出てくる。すごく詳しく書かれているので助かりました。そういうヒトたちのキャラクターを複合していったり、想像力で補ったり。実際、僕の芝居に出てくる人物はみんな、どこかヘンだったりもするので(笑)」

――不完全なヒト、弱さをもっているヒトに関心があるようですね。

「欠落を抱えているキャラクターに、どうしても惹かれちゃうんですよ。僕の子どものころのヒーローは、(『ゲゲゲの鬼太郎』の)ねずみ男と(『おそ松くん』の)イヤミなんです。なんでここまで卑しいのかと、笑っちゃって目が離せない。『仮面ライダー』は見たこともありません。唯一、『ウルトラマン』は好きですけど。なぜかというと、やられているとき、すごくせつない声を出す。あれを見て、不思議な性的興奮を覚えたような気がします(笑)」

――原作の小説にしても映画にしても、28歳の明日香の視点に不自然さをまるで感じませんでした。「ガールズ・ムービー」とも呼べそうな女性的な視点は、どうやって生まれたのでしょう?

「生むといいますか……昔から、男らしさには興味がないんです。“男らしくなさ”になんだか惹かれるんですよね。身体的なことでいうと男より弱いけど、対等に渡り合わなければいけない部分もあって。そういう(女性の)けなげだったり、儚かったりするモノが好きなんです。『大人計画』のオーディションでも、まず落とすのは男らしそうなヒト(笑)。男らしいこと、苦手なんですよね」

――それでは、ガールズ・ムービーというよりは「アンチ男らしさムービー」?

「僕の好きな映画に、『テルマ&ルイーズ』という女同士の逃避行劇があるんです。なんだか惹かれるものがあって、男同士のバディ・ムービーより好きですね」

――舞台となる精神科病棟は、現代を生きる人間にとって、どんな存在だと思われますか?

「よりカジュアルなものになってくると思います。ストレスがすごく多様化しているので。だって、お相撲さんまでストレス性障害になる時代ですから。ストレスをなくすことが大事なんでしょうけど、もう避けて通れないモノですね」

――“クワイエットルーム”については、いかがでしょう?

「『ここが自分の居場所』と決められているヒトは、すごく幸せだなぁと思います。僕自身、いつも足元がふらふら、フワフワで。毎日、違う仕事をしているし(笑)、『所在ない』のひと言なんですけど。普遍的なモノって、ホントにないような気がして。人間の立場もすべて多様化している時代だから、相対的に捉えていないと、簡単に足元をすくわれてしまう。確かさの実感が得られないから、心の病も増えていくのかなって気もしますよね。そういう意味からすると、“クワイエットルーム”というのはある種、象徴的な場所で。相対的な、流動的なモノのなかから、ホッと一瞬、止まっていられる場所でもあるんです」

――次回作についての構想は何かありますか?

「いろいろアイデアはあります。そのときのタイミングや予算に応じて、決めていこうかと。じつは最近ちょっと、老人のホラーってあまりないな、と思っていて。ホラー映画が好きでよく観るんですけど、だいたい若者がバンか何かでどこかに乗りつけて、セックスするころに何か出てくる(笑)。だから慰安旅行の老人が、目的地までなんとかたどり着いて、まだ恐い目に遭う、みたいな。長生きしたうえ、まだサバイバルしないといけない……って、あったら楽しいですよね(笑)」



取材・文/柴田メグミ

Profile

松尾スズキ
1962年12月15日、福岡県出身。
1988年、「大人計画」を旗揚げ、作・演出・役者を務める。1997年、舞台『ファンキー! ~宇宙は見える所までしかない~』で第41回岸田國士戯曲賞を受賞。公演チケットが常に即日完売の人気劇団を牽引するいっぽう、2004年、『恋の門』で長編監督デビュー。『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(07)では脚本を担当したほか、『イン・ザ・プール』(05)『図鑑に載ってない虫』(07)など、俳優としても映画界に欠かせない存在となっている。
この秋には、初めてブロードウェイ・ミュージカルを手がける『キャバレー』が東京・名古屋・大阪で上演予定。

Pick up Artist

「クワイエットルームにようこそ」
(C)2007『クワイエットルームにようこそ』
フィルムパートナーズ


出演/内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう、妻夫木聡、大竹しのぶ 脚本・監督/松尾スズキ
原作/松尾スズキ(文藝春秋刊)

●ストーリー
佐倉明日香(内田有紀)、28歳。バツイチのフリーライター。締め切りに追われ、仕事に行き詰る日々。同棲相手の鉄雄(宮藤官九郎)とも、すれ違いの微妙な状態だ。そんなある日、目が醒めると――見知らぬ白い部屋にいた。そこは“クワイエットルーム”と呼ばれる閉鎖病棟。明日香のめくるめく、絶望と再生の14日間が始まる……。

●10月、シネマライズほか全国ロードショー



これまでのインタビュー
#68 中村蒼 #67 ともさかりえ
#66 板尾創路 #65 尾野真千子
#64 吉沢悠 #63 伊藤歩
#62 石丸幹二 #61 加藤ローサ
#60 西島秀俊 #59 フットボールアワー
#58 林遣都 #57 能世あんな
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#48 成宮寛貴 #47 市川実和子
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#40 小出恵介 #39 西島秀俊
#38 Skoop On Somebody #37 山田洋次
#36 米倉涼子 #35 永作博美
#34 菊川怜 #33 浅野忠信
#32 松尾スズキ #31 堺 雅人
#30 松山ケンイチ #29 田丸麻紀
#28 熊谷和徳 #27 君塚良一
#26 行定勲 #25 藤原竜也
#24 ウェイウェイ・ウー #23 杏さゆり
#22 上原さくら #21 江角マキコ
#20 宮﨑あおい #19 伊藤英明
#18 乙武洋匡さん JUNICHIさん #17 姿月あさと
#16 椎名桔平 #15 ANDY LAU(アンディ・ラウ)
#13 忌野清志郎 #12 山下 久美子
#11 高橋克典 #10 妻夫木聡
#9 佐藤 可士和 #8 長谷川 理恵
#7 Amin(アミン) #6 沢村一樹
#5 上妻宏光 #4 松岡 充(SOPHIA)
#3 ますい志保 #2 滝田洋二郎
#1 鄭義信(ちょん・うぃしん)
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