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Introduction

どんな些細なことでも、演じる役に応じて
意識的にリアクションするよう心がけてます

国内外問わず、異彩を放つ名監督たちから常に熱いまなざしが注がれる浅野忠信さん。いまや国際映画祭の常連ともなり、「映画に愛される役者」としてめざましいキャリアを築き上げている浅野さんだが、その原点は初主演作でもある11年前の青山真治監督の『Helpless』にあるといえるだろう。

現在公開中の新作『サッド ヴァケイション』は、その『Helpless』と青山監督の知名度を一気に世界的に広めた『EUREKA ユリイカ』に続く”北九州サーガ”の集大成ともいうべき作品。『Helpless』以来、再び「健次」役に挑んだ浅野さんに、青山作品の魅力や今回の作品についてお話を伺った。

――そもそも『Helpless』を撮影していた時に、続編があるとご存知だったんでしょうか?

「いえ、全然。『EUREKA ユリイカ』が(7年前に)カンヌに出品された時、僕も『御法度』という映画で現地にいまして、そこで『EUREKA ユリイカ』を観たんです。そしたら、『Helpless』と同じ世界観が広がっていたので、「あれ、健次はまだどこかにいるんだ」とその時に思いました。青山監督はもっと前から構想していたのかもしれませんけど。」

――11年ぶりに「健次」という役を演じていかがでしたか? 続編ということで特別何か意識されたことはありますか?

「すごく集中力をもって役に臨むことができましたね。今まで同じ役をしばらくたってから演じるということがなかったので、とても楽しい時間を過ごすことができました。

続編だからどうというのは特にありませんでしたが、台本の前に青山監督が書かれた『サッド ヴァケイション』の小説を読みまして。そこに演じるべき「健次」のすべてがあったんです。だから撮影中どんなことが起きても、「健次」として対応できるように頭の中でシミュレーションしていました。

自分の頭の中だけではきっと考えきれなかったものが、全部小説に答えとしてあった。それがすごく嬉しかったし、なんだか僕自身の個人的なことまで驚くほど見透かされているような気がして、そんな風に「健次」が自分とリンクしているのも嬉しかったですね。」

――浅野さんは『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』でも青山監督と一緒にお仕事されていますよね。浅野さんにとっての青山監督とはどういう存在なんでしょう?

「映画初主演が青山監督の作品だったということもあって、監督は常に自分のことを見ていてくれる人ですね。とても話しやすいし、何でも受け止めてくれるし、それを作品にも生かしてくれる。遠慮のいらない関係性で、僕には非常に有難い存在です。勝手に仲良くさせてもらっています(笑)。」

――青山作品は少し観念的な部分もありますが、浅野さんが感じる青山ワールドの魅力とは何ですか?

「例えば時間は淡々と過ぎていくんだけれども、ただ淡々と過ぎていくだけではなくて、そこに生活に対する答えみたいなものがポンッと現れるので、それにいつも救われる気がするんですよね。偏っていないバランスがあるというのかなぁ。もちろん、青山監督自身がこだわって作っているものだから偏ってはいるんだろうけど、必ず最後に観る人それぞれが受け止められる何かがあるんですよね。」

――では、『サッド ヴァケイション』で、浅野さんが受け止めたものは何だったんでしょう?

「今回はたくさん共演者がいまして、人が普段の日常生活を送るように、役者それぞれが自分の世界で映画の中に存在していたんですよ。ある種、映画としての統一感をむちゃくちゃにしているようなところがあって。今までなら、一定のテンションや世界観の中に監督のテーマみたいなものがガーンと出てくるんですけど、今回は敢えてバラバラのままにすることで一貫していない答えを出しているようで、それが新鮮でした。」

――ということは、みんな自由に演じていた? 

「自由でしたねぇ。でも、後で完成した映画を観てみたら、僕があまりにも自分の世界に入り込みすぎていて、周りが見えなくなっていたことに気づきました。11年も前に演じている役だから、どうしても思い入れが強くて、どこかで自分の世界だけが映画に表現されていると思い込んでいたんですよね。でも作品にはいろんな側面があって、予測していた完成図とはまったく違っていたから、「エエッ?!」って。混乱もしました。「あれ? 俺、これで成立しているのかな」と(笑)。

だけど、『Helpless』とも『EUREKA ユリイカ』ともまた違う流れの映画になっていて、意外に明るさもある。一体どういうことなんだろうと驚きはしたけれど、青山監督が常に新しい可能性を探っているようで、そういうものを見せてくれたのが嬉しかったですね。」

――青山監督も非常に浅野さんの才能に惚れこんでいますけど、具体的にどんな褒め言葉が印象に残っていますか?

「なんですかね? いっぱい褒めてくれるので嬉しいんですけど、何が心に残っているかなあ。例えば僕はどんな些細なことでも、演じる役に応じて一個一個意識的にリアクションするよう心がけているんですけど、そういうのを青山監督が必ず見てくれていることでしょうか。言葉として言うわけではないんですけど。本当に細かい部分なので、気づかない人もいるけれど、青山監督は見逃さず、ちゃんとそこを評価してくれるんですよね。」

――『Helpless』は父親をめぐる物語でしたが、今回の作品では母親がテーマになっています。父親と息子である「健次」を捨てて出て行ったこの母親のキャラクターには理解しにくい部分もあったかと思いますが、浅野さんはどう捉えましたか?

「まったく考えていなかったですね(笑)。都合よく解釈すれば、「健次」も再会するまでは母親のことなんか考えていなかっただろうし、そこは人間みんな自分勝手に生きていると思うんですよ。僕が考えたところで、(母親役を演じた)石田えりさんはやり方変えないですし(笑)。でも、僕と同じようなテンションで役に接していたのが石田さんだったんですよ。向いている方向が同じだったので、そこは救われる気がしました。」

――「健次」は母親に復讐心を抱きますけど、一方で母親をすごく求めてもいますよね。

「そうですね。復讐心が生まれるっていうのは、要は幼稚だから。5歳の時に母親がいなくなったために、「健次」の中で何かが5歳のままで止まってしまった。だから母親といざ対面すると、5歳の時の自分がばっと出てしまう。でも、その実、母親には会いたかったんですよね。殺したいと思いながら一緒に暮らして仕事まで手伝ってしまうのは「健次」の面白いところだし、「健次」自身もきっとよくわかっていないと思う。それがまたリアリティの一つですよね。」

――この11年、浅野さん自身にもいろいろ変化があったことと思います。役者人生をスタートさせた頃は、「俳優は辞めるかも」と取材で発言されていたこともありましたよね。

「さすがにもう辞めようとは思わないですし、役者という仕事に対しての考え方も変わってきましたね。天邪鬼だから何かに収まりたくないっていう気持ちはありますが、自分の中で手ごたえなり何かをしっかり受け止めてからでなければ次に進めないと思っています。

この11年の間に、いろんな役をやらせてもらって、随分成長させてもらいました。天邪鬼で生意気なのは今も変わってないんですけど、昔は自分が信用するやり方しかできないと思っていて、信頼できないものを避けていたし、そういうものを心の底から嫌ってもいました。でも、その後、いろんな役にチャレンジする中で考え方も変わってきて、今再び『サッド ヴァケイション』で自分の本来のスタイルに戻ったという意味では、何かが一周したのかもしれませんね。」

Profile

浅野忠信
1973年11月27日、神奈川県出身。1990年、松岡錠司監督の『バタアシ金魚』で映画デビュー。1996年に青山真治監督と出会い、青山監督のデビュー作品『Helpless』で映画初主演を果たす。その後、2001年『風花』(相米慎二監督)、『殺し屋1』(三池崇史監督)、2003年に『アカルイミライ』(黒澤清監督)、『座頭市』(北野武監督)などに出演し、際立った存在感で日本を代表する俳優となる。クリストファー・ドイル、ペンエーグ・ラッタナルアーン、ホウ・シャオシェンなど海外の監督作品にも多数出演し、国際的な評価も高い。

Pick up Artist

「サッド ヴァケイション」
(C)間宮運送組合 2007

出演/浅野忠信、石田えり、宮崎あおい、板谷由夏、中村嘉葎雄、オダギリジョーほか
原作・脚本・監督/青山真治

●ストーリー
北九州の若戸大橋のたもとにたたずむ小さな運送会社、間宮運送。社長の間宮は、バスジャック事件の被害者や借金取りに追われる男、資格を剥奪された元医師など、さまざまな事情を抱える流れ者たちに職を与え、家族同然で一つ屋根の下で暮らしていた。そこへ密航の手引きから運転代行業へと職を変えた健次が現れる。間宮の隣にいた妻は、奇しくもかつて健次を捨てて出て行った母・千代子。母への復讐心を胸に秘め、ともに暮らし始めた健次の前に、千代子の偉大な母性が立ちはだかる。





これまでのインタビュー
#62 石丸幹二 #61 加藤ローサ
#60 西島秀俊 #59 フットボールアワー
#58 林遣都 #57 能世あんな
#56 スネオヘアー #55 高良健吾
#54 玉木宏 #53 麻生久美子
#52 加瀬亮 #51 仲村トオル
#50 渡部豪太 #49 マイコ
#48 成宮寛貴 #47 市川実和子
#46 塚本高史 #45 新垣結衣
#44 遠藤雄弥 #43 鮎川誠
#42 タナダユキ #41 伊原剛志
#40 小出恵介 #39 西島秀俊
#38 Skoop On Somebody #37 山田洋次
#36 米倉涼子 #35 永作博美
#34 菊川怜 #33 浅野忠信
#32 松尾スズキ #31 堺 雅人
#30 松山ケンイチ #29 田丸麻紀
#28 熊谷和徳 #27 君塚良一
#26 行定勲 #25 藤原竜也
#24 ウェイウェイ・ウー #23 杏さゆり
#22 上原さくら #21 江角マキコ
#20 宮﨑あおい #19 伊藤英明
#18 乙武洋匡さん JUNICHIさん #17 姿月あさと
#16 椎名桔平 #15 ANDY LAU(アンディ・ラウ)
#13 忌野清志郎 #12 山下 久美子
#11 高橋克典 #10 妻夫木聡
#9 佐藤 可士和 #8 長谷川 理恵
#7 Amin(アミン) #6 沢村一樹
#5 上妻宏光 #4 松岡 充(SOPHIA)
#3 ますい志保 #2 滝田洋二郎
#1 鄭義信(ちょん・うぃしん)
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