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Introduction

知らず知らずお互い影響を与え合う事って、絶対あり得る

『さくらん』の脚本担当、『赤い文化住宅の初子』の監督と、目まぐるしい飛躍を続ける新鋭・タナダユキ監督。彼女が脚本・監督を務めた『百万円と苦虫女』は、あの人気若手女優、蒼井優さんの三年振りの主演映画と言う事でも、話題の作品です。
百万円が貯まる度に知らない街へ移り続ける女の子の、青春ロードムービー『百万円と苦虫女』。ほろ苦くて、切なくて、甘酸っぱいこの映画を、新進気鋭の女性監督はどの様に作ったのでしょうか?タナダユキ監督にお話を伺いました!

Fe-MAIL(以下F)-監督がこの映画を作ったきっかけは何ですか?

タナダユキ(以下T)-プロデューサーから、「蒼井優さん主演で何か撮りませんか?」というお話があったんです。きっかけはそれですね。そこから、”蒼井優さんが出るなら、どういう話が面白いかな…”と考えていきました。オリジナルものをやると決めて、色々話していく内に、「ロードムービーみたいなものはどうかな」と言う話になったんです。日本でロードムービーって余り絵にならない気がして、どうかなって思ったんですけど、友人との雑談の中でヒントをもらい、百万円ためて転々とする女の子という話が出来上がりました。

F-蒼井優さん、鈴子役がぴったりでしたね。

T-そうですね。そもそも鈴子という役自体、蒼井さんを見て考えたんですよ。この映画の話を頂いた時期が、蒼井優さんが『フラガール』などで様々な賞を受賞されている時で、その様子をTVでちらっと拝見したんです。その時はまだ、蒼井優さんにお会いした事がなかったんですが、何となく“この後パーティがあったりするんだろうけど、余り上手くテーブルを渡り歩けなそうだなぁ…”と勝手に想像し(笑)、地味なキャラにしよう!と思って、そこから話ができていったんです。蒼井さんも、鈴子という人物に凄く真摯に向き合って考えてくれて、結果、自然と“鈴子”のキャラクターができていったと言う感じですね。

F-鈴子は独り言が多いですが、とても自然ですよね。むしろその独り言が鈴子の“人となり”を表している気がしました。

T-この作品に限らず、独り言を言うシーンって結構、“コレ大丈夫なのかな…”と思ってしまうんです。独り言でセリフを言わせても、それが単なる”説明”になってしまったりするじゃないですか。余程リアルに演じてくれる人じゃないと、成立しなかったりするなぁと…。今回もそんな不安があったんですが、蒼井さんは、そういうものも非常にリアルに演じる事ができるというか、リアリティを持って演じてくれるので、大変助かりました。蒼井さんの凄い所ですね。

F-ロケの多い作品で、撮影も大変だったと思いますが、現場の雰囲気はいかがでしたか?

T-雰囲気は、すごく良かったですね。笑いが絶えないんだけれども、それによってスタッフの手が止まる事は無いんです。皆、真剣に仕事をするからと言って喋らないと言う事がなくて、口も動くんだけど手も動く、みたいな(笑)。凄いスタッフが集まってくれたなぁと思います。

F-監督ご自身が、撮影中に一番辛かった事は何ですか?

T-暑さですね。それから、海の寒さも。本当に大変でした・・・。

F-共演の森山未來さんですが、中島役が見事にハマっていて、とってもステキでした!今まで観た森山未來さんの中で、一番格好良かったです。監督が中島役に森山さんを起用したのはなぜですか?

T-脚本前のプロットの段階から、中島は森山君が良いなと思っていたんです。森山君自身が持っているセンシティブな感じとか、品のある色気とか、清潔感とか、そう言うものが中島という役を演じるにあたって、とても良いんじゃないかなと…。それから、鈴子の相手役という立ち居地なので、“蒼井さんと誰がスクリーンで写っているとドキドキするかな”みたいな事も考えつつ(笑)。観た事の無い組み合わせでしたしね。

F-そう言えば、意外にもお二人は初共演なんですよね…。

T-脚本執筆の時すでに、“中島=森山君”というイメージで書いていたので、蒼井さんと森山君のツーショットが観られる事になって、一番喜んでいたのは私かもしれません(笑)。実際、森山君はイメージぴったりでした!本当に何か・・・、蒼井さんと二人、似たもの同士という感じを、凄くかもし出していて。

F-飲み会のシーンは、特にそれ(似たもの同士)が顕著でしたよね。

T-そうですね。でもあの感じは、やはり二人の役作りがしっかりしているのと、周りの人達の力もありますね。酔っ払って盛り上がっている感じって、脚本で細かく書くわけじゃなくて、現場で作りながら出来ていくものなので…。あの場面は、勘の良い人達に集まって頂いて本当に助けられました。

F-飲み会シーンで登場したバイト仲間達を始め、登場人物皆がリアルで人間臭いですよね。特に、堀部(圭亮)さんの役が印象的でした。鈴子にお説教する時の、イラっとくるセリフが良かったです(笑)。

T-実は、あのセリフはアドリブなんですよ(笑)。私自身アドリブは、どちらかと言えば嫌いなのですが、堀部さんは面白いので、あの辺はお任せしましたが・・・、最高でしたね。編集作業をしていても、もったいなくて切れないんですよ、堀部さんのセリフ全部が面白くて。ちなみに笹野さんのマイクパフォーマンスもアドリブです(笑)。

F-鈴子が中島のノートを感慨深く見るシーンなどの、細かい恋愛描写にかなりキュンとしたのですが(笑)、監督は女性ならではの視点で、意図的に、“女心のツボをおさえた”シーンを撮られたのですか?

T-”ツボをおさえる”のは、計算でできる事ではないと思いますが…。二人の設定が21歳位ですし、“これは思い切って甘酸っぱくいってみよう!”とは思いましたね。この歳でああいう甘酸っぱいシーンを撮るのは気恥ずかしいんですけど(笑)。

F-中島と鈴子の関係に加え、鈴子と弟拓也の関係も、物語の中で核になっていると思うのですが、二人の関係はどうやって作っていったのですか?

T-私には弟がいないので、今回の拓也と鈴子の関係は想像なんですけど…。女の子とは違う、男の子だけの世界がある気がして、男の子の世界は男の子の世界で結構厳しいんだろうなぁと思って書きました。あとは、“離れているからこそ、お互いを思える”という事。同じ場所で同じ物を見ている訳ではないけれど、知らず知らず、お互い影響を与え合うという事って、絶対有り得るなぁと思って作りましたね。

F-監督がこの映画で一番伝えたかった事は、何ですか?

T-うーん、何でしょう…?「人って簡単に間違えるなぁ」って事ですかね(笑)。

F-エンドロールで流れる原田郁子さんの主題歌も、映画とマッチしていてとってもステキでした。どの様な経緯で原田さんにお願いする事になったのですか?

T-女の子が主人公なので、女の人の歌で終わる方が良いなぁと思ったんです。元々クラムボン(原田さんがボーカルを務めるバンド)が大好きだったのですが、この映画の世界観を、原田さんだったら原田さんなりに構築してくれるのではと思って、お願いしました。完成品ではなく、編集で固めた状態の映画を渡して、それを観て作って頂きました。

F-あのラストシーンの後に、原田さんのあの声が流れてくるのが、凄く絶妙ですよね。

T-そうですね。原田さんのあの曲を聴いていると、鈴子が行った場所が思い出せるんですよね。本当に映画に寄り添った曲を作って下さって…。曲ができあがった時は、凄く嬉しかったです。

F-次回作について教えて下さい!

T-「俺たちに明日はないッス」という男の子三人のお話で、さそうあきらさん原作漫画の映画化なんです。晩秋公開予定です。

F-次回作は原作モノなんですね。今から公開が楽しみです!
ありがとうございました!



取材・文/小林望

Profile

タナダユキ
1975年福岡県生まれ。主演も務めた初監督作『モル』は、各界からの絶賛を受け、PFFアワード2001グランプリとブリリアント賞(日活)の二冠に輝く。フォークシンガー、高田渡氏のドキュメンタリー『タカダワタル的』(2004)は東京国際映画祭特別招待作品に。その後2007年に発表した監督作品『赤い文化住宅の初子』と脚本を担当した『さくらん』でも高い評価を得る。今大注目の女性監督。

Pick up Artist

(c)2008「百万円と苦虫女」製作委員会

「百万円と苦虫女」 7月19日全国ロードショー

監督・脚本/タナダユキ 出演/蒼井優、森山未來、ピエール瀧、竹財輝之助、他

●ストーリー
短大を卒業後、就職もできずアルバイト生活を送っていた主人公、佐藤鈴子(蒼井優)。ひょんな事件に巻き込まれ傷ついたことをきっかけに彼女は家族のもとを離れ、貯金が百万円になるごとに誰も知らない土地へ移り住むことにするが…。ちょっとビターで憎めない女の子の旅物語。




これまでのインタビュー
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