
1998年から2000年まで週刊文春に掲載され、単行本化されるや25万部を超える大ベストセラー となった浅田次郎原作の「壬生義士伝」。新撰組の中ではまったく無名だった男・吉村貫一郎の自分なりの「義」の貫き方を描き、幅広い世代に支持され感動の涙を流させた本格小説だ。 この原作を、男同志の関係を描かせたらピカ一の『眠らない街 新宿鮫』や『陰陽師』の滝田洋二郎が映像化。 大胆に原作の構成を変えたものの、原作の持つ男同志の絆や義の心、家族愛はそのままに見事に泣ける映画に仕上げた。原作を読んで何度も泣いた、という滝田監督に映画の見所から始まって、今の日本人に足りないものや、自身の人生哲学について多彩なお話を伺った。
Fe-MAIL(以下F)-原作を読んで何度も泣いたそうですが、どこで泣きました?
滝田洋二郎(以下T)-いっぱいありましたよ。原作では吉村って男をいろんな人がいろんな角度から語るんだけど、なるほど吉村のとった行動にはこんな背景があったのか、と分かるところでずいぶん泣きましたね。それはたとえば吝嗇なのは故郷にいる家族に送金するためだ、とか、生き方を吉村が父に教わり彼はその通りに生き、また吉村は息子に生き方を教え、息子はその教えを守った、というところなんか。やっぱ昔の人は息子に「生き方」をしっかり伝えてたんだなって感銘受けましたね。吉村の行動の影には必ず家族がいて、その辺の健気さに対して僕なんかそうなのかなー?なんて思いながらも気持ち良く泣けました。泣くのって気持ちいいですね(笑)。
F-脚本(中島丈博)が見事ですけど長い小説だから難儀したのでは。
T-これは残された者たちのドラマなんですよ。吉村の息子の親友、吉村の娘のみつ、そして新撰組の先輩だった斎藤一。彼らが一番愛した吉村の魅力をどうやって出していくか?と思った時に吉村の親友の息子が経営する病院の話を思いついたんです。そこに飾られた吉村の写真を媒介にして新撰組や盛岡の過去に飛べるというね。この構成はいける、と思いました。小説と映画は違うので、人が喋って芝居をした時にどうやって感情を高めていくかが一番小説の映像化で大変なことですね。
F-吉村役の中井貴一さんと斎藤役の佐藤浩市さん両者とも180センチの長身で着物姿が素敵でしたし、殺陣もキマッてましたね。
T-殺陣はね、彼らには積み重ねがあるからね。時代劇やると、殺陣からなにから教えこまれた最後の世代が彼らと思うんだけど、その積み重ねは刀抜く前にもうキマッてるものなのね。初めて京都の撮影所で撮影したけど、やっぱ門をくぐれば夢の工場である撮影所は必要だと再認識しましたね。現場では僕も役者の気持ちになろうと思って実は毎日着物着てたんです(笑)。
F-左利きの剣の達人である斎藤ですが、佐藤さんて右利きですよね。
T-そうなんだよ。だから大変だったんだ。体の使い方が全部反対になっちゃうからね。大人になったら脳と直結してるからね、脳も完成してるし直すのむずかしいみたい。ずいぶん稽古したんだけどね。
F-でも、すべては家族のため、という吉村って今じゃ絶滅種の男ですよね。
T-いませんね。僕も共感するのは斎藤の方なんだな。原作では彼が一番好きだった。実は吉村に憧れてるんだけど、自分にはできないことされたら腹が立つから許さないっていう。そういうことってあるでしょ。ひねくれてるんだね。でも、女性(吉村の妻のしずと斎藤の女のぬい)二人も絶滅種ですなぁ。男から見れば。 だからこそ、若い子に見て欲しいなーっと思うんですよ。試写会では10代20代の女性の反応いいんですよ。主に吉村と幼い娘みつとの橋での別れのシーンや、吉村が切腹する前の独白のシーンとかで泣いてしまうみたいですね。
F-しずとぬいの生き方は、女ってこういうのが幸せだったはずなんだよな、と思わせてくれるものがあってハッとしましたね。
T-かわいいよね。
F-監督は男同志のドラマってほんとにうまいですけど、男同志の物語で好きなのってなんですか。
T-『明日に向って撃て!』かな。ブッチとサンダンス(役名)は勝手なことばっかやってて最後死んじゃうけど。男同志の友情や信頼が、僕の中では、男が生きていくのに必要なものだと思ってるとこあるから。単に知り合ったというだけじゃなくて、死へいかざるを得ない運命の男ってけっこうかっこいいかな、と思ったりするわけで(笑。照れている)まあ、まだ男と女に関しては経験不足ってことだナ(笑)。
F-この映画のテーマは『たそがれ清兵衛』にも共通すると思うんですが今の日本に必要なもの、足りないものってなんでしょう。
T-皆何かが満たされてないんだろうね。こんなはずじゃなかったって。戦後なにかを信じて生きてきたわけでしょ。一生懸命働けば豊かな暮らしが待っている。幸せになれる。幸せってなんだっけ。でも、幸せなんてないんだよね。それはきっと人に生かされてきたから。自分の意志で一人一人が道を選ばなかったからだね。やっぱ集団心理で価値観が一つになってしまったというか。いい大学出て大企業に入ればっていうキャリア至上主義の世の中だったのが、バブルがはじけちゃったわけだよね。そこで自分にとって一番大切なものは何か?いかに生きて行動していくべきかって気づくべきだったんだよね。心の中には日本人の素晴らしいDNAが染み付いているにもかかわらず、周りに対する優しさとか忘れてたんだよね。最近やっとそういう精神的なものを模索し始めたと思いますけど。
F-そんな混迷の時代を生き抜くのに大切なことは。
T-自分自身ですね。なにが大切かを捜さなくちゃいけない。見つけ出して信じて、行動をとらなくちゃいけない。 人を信じることで豊かになっていく。そういう社会になればいいなと思いますけど。
F-監督の人生哲学は?
T-自分の第六感を信じろ!はずれることもあるけど(笑)。何かを決める時は自分の感を信じたい。 たとえば誰もがおもしろいというホン(脚本)がある。でも、俺乗らないからだめなんだ。でも客観的にやった方がいいんだ。仕事だから。でも、やらない、こともある。自分を自己分析してもしかたないとこあってやっぱ、人間てのは勘というのが一番大切だと思います。もちろんはずれることもあるけど、そういうもんだと思ってる。それより後悔したくない。まあ勘だけ言ってるとちっちゃい世界になっちゃうんで、貪欲さも持ち、野次馬根性であれっと いう、ね(笑)。
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『「壬生義士伝」ストーリー』 ある夜、孫を背負って医者を訪ねてきた老人、斎藤一は、その小さな医院の机の上の写真に目を留める。写真の主、吉村貫一郎は斎藤老人にとって忘れられない男だった。そしてその医院の医師、大野にとっても吉村は忘れられない男だった。斎藤老人の回想は自分が若かりし頃、所属していた新撰組の新入隊士入隊試験から始まる。素朴な外見からは想像できないすご腕の剣で入隊してきた男こそ、吉村だった。斎藤は万事金にこだわる吉村にうっとうしいものを感じていたが、それが故郷盛岡に残してきた妻子への仕送りのためだと知って、吉村に次第に関わっていくことになる。一方医師・大野にとって吉村は盛岡での剣の師であり、父・大野次郎右衛門の親友であった・・・。
■1月18日から全国松竹系劇場にてロードショー http://www.mibugishi.jp/ |
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取材/一宮浩美 HIROMI ICHIMIYA |
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