
「盲導犬クイールの一生」というベストセラーが映画化された。盲導犬は両親とも盲導犬という血統が必須なのだが、片親だけ盲導犬という犬が訓練を受け、立派に盲導犬としての一生をまっとうする姿が描かれている。やくざからエリートビジネスマンまで、イメージを固めることなく様々な役にチャレンジする椎名さんは、今作ではクイールを育てた訓練士を演じる。お会いした椎名さんはじーーーっとこちらの目を見て、ていねいに話をしてくれる方で、黒の細身のスーツが長身に似合っていた。犬との撮影で大変だったことや、役作りについてお話を伺った。
Fe-MAIL(以下F)-出来上がった映画を見ての感想はいかがでした?
椎名桔平(以下S)-崔(洋一)監督らしいバランスの良い抑え加減に仕上がってましたね。ストーリーの抑揚を抑制してるからこそ、スクリーンから感情が浮き上がってくる。平たく言えば押し付けがましくなく、自然と何かを感じてもらえる作りになってると思います。
F-ものすごく淡々としたつくりだったので私なんか共感できない部分もあったんですけど、見ててウルッとしたとこなんてありました?
S-僕は演技してる方なんでお客さんみたいに客観的には見れないけどね。でも、淡々としているという意味では少し置いてかれるような人もいるかな。映画を見る方の中にはあんまりベッタリ泣かせで見せられたくないって方もいると思う。そういう方たちも含めて一番いいバランスを考えた作りになってたと思いますね。まあ、100人いれば100通り映画の見方、感じ方ってあるからね。
F-劇中ではクイールの成犬の役をラフィー君というラブラドール・レトリーバーが演じてますが、ラフィー君ってどんな犬でした?
S-無邪気で陽気で、やんちゃ。だけど利口な犬でしたね。
F-やっぱり犬との共演って大変でした?
S-それは犬にこういう芝居をやってくれって言っても説明つかないからね。犬が芝居やってるかのように見せる為の細工や準備、神経の使い方ってのはスタッフ、キャスト一致団結して協力しましたね。今回、監督は同じフレームの中に犬と人間が入っているという構図にこだわってらしたので、カットを細かく割ってごまかすことは最初から出来ませんでしたし。僕の方はフレームの中で犬を操作するのになだめたり、真面目にやれって叱咤したりいろいろやってましたけどね。やりにくいのは当たり前の話でね。でも振り返ると、なだめたり、叱咤したのが一つのスキンシップになって犬との距離を縮めていけたと思います。
F-椎名さんは実際のクイールの訓練をした多和田悟さんの役を演じたわけですが、ご本人にはお会いになった?
S-もちろん会いました。それに多和田さんは現場にずっといらして、犬との演技については多和田からたくさんのアドバイスをいただきました。たとえば訓練士の心構えから、どういう時にどんな行動をとるのかとか、犬への接し方、話しかけ方、どんな言葉を使うのかなど・・・僕がじっと多和田さんを見て吸収したこともずいぶんあります。
F-多和田さんの何が一番印象的でした?
S-最終的に訓練士が何を考えてるかっていうと、視覚障害者の方の人生を預かるという大きな責任があるということなんです。道を歩いてて犬がミスをするということは許されない。それは、使用者の命を直接危険にさらすことになるからです。そういう非常に厳しい考え抜きには訓練士になれないわけなんですね。現実に対してはとても厳しい目を持っているんだけど、犬に対しては優しく教育していく。そんなメリハリが一番印象的でした。それと、クイール自体特別な犬じゃなかったらしいんですよ。盲導犬としては決して優秀というわけじゃなくて、多和田さんにとっては大勢いる訓練所の中の一匹だった。だから僕もそういうまなざしを忘れないように演じました。
F-今回役づくりでは何から始めたんですか?
S-まず京都の亀岡市にある盲導犬訓練センターに行って事前に研修を受けました。犬の扱いは慣れてるから(椎名さんもラブラドール・レトリーバーを飼っている)問題ないとして、それより大事だったのは視覚障害者の生活や感情を勉強することでした。そうすることで訓練士の存在が見えてくる。でも、訓練士の仕事ってほんと大変なんですよ。ほとんどボランティアでもいいような心構えでいないと務まらない仕事でね。拘束時間は長いし、休みはないし、その中での毎日の訓練、犬への愛情、訓練犬が卒業できるかどうかの厳しい判断、使用者とのマッチングも見なきゃならないし。そんな大変な仕事を多和田さんはなぜ選んだのか? 続けてるのか? 多和田さんの挫折や忍耐、思いを想像して内面の役作りをしていきました。
F-この映画を撮り終えて残った感慨ってありました?
S-あんまりそういうこと考えないタチなんです。いつもいいもの作ろう、って思って、高い次元でプロの人たちと交わって、自分の力をその中で最大限発揮できたらいいな、と仕事に向かってるんで。撮影期間は集中してるけど、終わってからは引きずらないですね。でも初日を迎えてお客さんがたくさん入って、人から「入ってるよ」って聞いた時に「ああ良かったな」っとは思いますね。さっき「淡々としたつくり」っておっしゃってましたけど、淡々としてるものは大人が作り出すものだと思うんですよ。崔監督はそういう意味で大人ですし、『クイール』って子供向きの題材だけど、大人にも見て欲しいと思ってらっしゃる。僕も大人として演じました。そういう感情を押し付けない大人の世界を作って良かったと思えたし、やることはやったって感じですね。
F-秋には主演作『約三十の嘘』(大谷健太郎監督)も公開されますが、映画に対して思い入れってあるんですか?
S-いや、映画もテレビも舞台も同じようにやってます。役者としては一つ一つの作品を吸収してまた身体から出して、の繰り返し。その作業の中で自分の中に蓄えられるものがある。それが成長していくってことなんだと思ってます。
F-その過程は役者だけに限らず私たちも同じですよね。ありがとうございました。
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「クイール」 監督/崔洋一 出演/小林薫、椎名桔平、香川照之、戸田恵子、寺島しのぶ、黒谷友香 ●配給=松竹 ●3月13日から全国松竹系劇場にてロードショー |
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| 文・取材/一宮千桃 |
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