
現在公開中の「海猿」は、佐藤秀峰(「ブラックジャックによろしく」等)の人気漫画の完全映画化。人命救助のエキスパートである「潜水士」を目指す海上保安官14人の熱いドラマを描く感動娯楽作だ。原作を読んだ時から主役の仙崎大輔を演じたかったという伊藤英明さんにお話を伺った。自身も4年前にマスターダイバーのライセンスを取ったという海好きの伊藤さんは、すらりっとした長身を黒のパンツとジャケットで包み登場。熱く饒舌に映画を語ってくれた。 取材後には伊藤さんの方から握手を求めてくださって、いろいろ取材したけど、自ら手を差し出してくれた日本人は伊藤さんが初めてで、少々面食らってしまった。
Fe-MAIL(以下F)―映画感動しましたけど、伊藤さんは完成した映画ご覧になっていかがでした?
伊藤英明(以下 I)―なんかドキュメンタリー見てるみたいな感じでしたね。去年の6月から約3ヶ月間、東京に戻らずに広島と北九州で合宿しながら撮ってたので、楽しかった部活動の風景を見てる感じで。役を演じるとかじゃなくて僕の中ではその時を生きた、っていう経験として残ってますね。去年の楽しかった夏のアルバムを懐かしく見てるみたいな。
F―何が一番楽しかったですか?
I―いやもう全部ですね。体力的にはきつかったけど(伊藤さんは劇中の潜水シーンは全て自分で演じている)毎日充実感、達成感が得られて、すごく疲れて心地いい感じ。みんなと寝起きを共にして同じもん喰って、訓練して・・・撮影中27歳だったんですけど、なんか青春時代を満喫してる感じ(笑)でした。
F―合宿したりするお仕事って初めて?
I―そう、しかも地方で。3ヶ月も。みな同級生か、戦友みたいで。実は僕のバディ(相棒)役の伊藤淳史くんはカナヅチで、訓練以前に泳げないんだけど、彼は泣き言も言わずに必死にみんなについていこうってがんばって、それを見てて胸が熱くなりました。彼は最後にはみんなに引けを取らないスキルを身につけてたし、彼の存在はみんなに中身の濃い絆を作らせましたね。僕は伊藤くん演じる工藤が課題をクリアしていくシーンが一番好きなんですよ。
F―合宿ではルールがあったそうですね。
I―ええ。役名で呼び合うことと、自分たちで機材や潜水の道具のかたづけをすること。劇中でもリーダーの海東(健)くんが仕切って点呼や連絡事項を伝えることとか、バディと行動を共にすることですね。カメラが廻ってない時も仙崎でした。なりきりましたね。いつも役はそんなひきずらないんですが、この映画は撮影終わった時淋しかったですね。今もそうなんですけど、「あーっ戻りたいな」って思う。撮影終わって東京帰ったらどうやって東京で暮らしてたか、忘れちゃってて(笑)。空気もまったく違うし・・・。今はあの時の自分がうらやましいです。原作読んでやりたいって思ってた役でお話が来て、出演できて、今後、そんな役に巡り会えることあるか、ないかだと思うんですよね。そういう意味でも僕にとってこの映画は大事な大事なかけがえのない映画です。
F―海上保安庁の方には接したんですか?
I―今回保安庁は全面協力してくれてて、訓練からずっと海上保安大学校の教官がついてくださって指導してくれました。印象ですか?正直かっこいいなと思いましたよ。厳しく優しい。海の男だからおおらかで、素敵な人たちで。潜水士って人命救助のエキスパートなんだけど、実際の仕事のほとんどが死体の引き上げだったりするんですよ。でもそのために自分の命を投げ出して、何が起こるかわかんない水中での仕事を一生懸命やってる男たちってかっこいいですよ。
F―やっぱりかっこいいんですね。
I―彼らから教わったことはたくさんあります。潜水士の仕事ってすごく死に近いとこにいるんで、死や人生に対して達観してるとこがあって、人間は死ぬものだから、人生でがんばれる一瞬一瞬が大事なんだって。それと死んだら二度と同僚や友人に会えないわけだから、人間関係をすごく大事にしてるとか、ほんと胸が熱くなる。そう、仕事で一番つらいって言ってたのが、潜水士でない人は救助はしてはいけないんですね。いくら海上保安官といっても自分の安全が確保されていないと、目の前で溺れてる人がいても助けることができない。海上保安官だからこそできない。これは映画の中でも描かれていたことなんだけど、そういうもどかしさ、気持ちのせめぎあいがつらいって。それから海で亡くなった人の遺体を家族に届ける時のつらさとか・・・。そういうのを自分の命を賭けてやってるのって僕にはとうていマネできない。だからこの映画をいいものにして協力してくれた彼らに恩がえししたいと思うようになりました。 世の中にこんな仕事してる人がいるんだって知って欲しいし、たくさんの人に見て欲しい。
F―(かなり感動)ふ~む。そうなんですか・・・。ところで、この映画のテーマのひとつにもなってますが、バディとふたり水深40メートルの海底に取り残されて、残圧30、片道一人分のエアしかなかったら、伊藤さんだったらどうします?
I―自分だけ上がりますね。空気がなくなったらすぐ上がればいいって思うかもしれませんが、水深が深くなればなるほど安全停止しながら上がんなくちゃいけないんです。体の中の窒素を抜かなきゃならないから。急浮上なんかしたら命に関わるし、二度と潜れなくなる。残圧30だったら上がるだけでもう潜れなくなりますね。そういうことも分かって見るとこの映画はもっと面白くなるんだけど。もちろん、理想はバディとふたり助かればいいけど、現実はそうじゃない。人命救助の潜水士が潜れなくなるって死んだも同じですからね。
F―へえー。そうなんですか。(潜水知識ゼロなのでやたら感心)最後に、伊藤さんが日々心がけてることってなにかありますか?
I―今、日々一生懸命生きる。がんばるってことですかね。あと、健康かな。この映画撮ってそういう気持ちが強くなりましたね。ほんとに楽しい夏があと何回来るかってことですよね。今からふらっと旅行こうかって、行けることがあと何年あるか、親としゃべって一緒に遊びに行けるのがあと何年あるかな、って思うと、ほんとないですよ。死んだら二度と会えないし・・・そう考えたら一瞬でも無駄にできないなって思います。 最後に、映画とにかく見て下さい。
F―ありがとうございました。
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「海猿 ウミザル」 配給=東宝 全国東宝系劇場にて公開中 監督 羽住英一郎 出演 伊藤英明、加藤あい、海東健、伊藤淳史、藤竜也、香里奈、杏子、國村隼
ストーリー 海上保安官の中でも難関で最も危険な仕事、「潜水士」になるためには、50日間におよぶ潜水技術過程研修を受けなければならない。そんな地獄の訓練に挑む14名の海上保安官たち。仙崎大輔は海難救助の最前線で働きたいと研修に参加するが、バディを組まされた相手はおちこぼれ気味の工藤。なにかと足を引っ張る工藤にイラつく仙崎だったが、工藤の潜水士を目指した理由を知り、彼に心を許すようになる。しかし工藤は・・・。 |
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| 文・取材/一宮千桃 |
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