
キリッとした美貌とアルトな声。正直な発言と飾らないサラリとした魅力で男女を問わず人気がある江角マキコさん。95年の『幻の光』の時にお話を聞かせていただいたことがある。その時もお父上のご病気のことを正直に話してらして、好感を持ったのだが、今回9年ぶりにお会いしてもそのスタンスは変わらず。多分会った人誰もが好意を持つのではないかと思われる感じの良さと賢さだ。今回老舗映画会社、松竹の人気シリーズ『釣りバカ日誌15ハマちゃんに明日はない!?』にゲスト出演。小津安二郎の『麦秋』で原節子が演じた役と似た設定のキャリア・ウーマン役を美しく情緒豊かに演じている。映画のことや日々の暮らしのことをあれこれ聞かせていただいた。
Fe-MAIL(以下F)今回人気シリーズへのゲスト出演ですが、『釣りバカ日誌』シリーズはご覧になったことあるんですか?
江角マキコ(以下E)ええ。観たことありますし、私は西田敏行さんの大ファンで、天上人みたいに思っている人と共演できるなんて興奮と緊張が入り混じって、お話が来た時は大変なことになったと思いました(笑)。
F―西田さんだけじゃなくて、三國連太郎さん、吉行和子さん、浅利香津代さんとベテランの方ばかりですけど、いかがでした?
E―ものすごく感動しましたね。ベテランの方って私の勝手なイメージだったんですけど、監督とのやりとりでも「エッなんで?いいじゃん」みたいなやりとりで、ギクシャクしてるんじゃないかと思っていたのですが、全然違いました。監督の出す指示に何度もチャレンジして、自分が納得いかなかったら「もう一回やらせてください」って何度も演じて、その姿勢にびっくりしたし感動しました。ベテランだからって手を抜くんじゃなくて、まだまだもっともっと自分に何かしら出来るんじゃないかと皆さん模索してらして、スポンジのような心を持った方たちばかりで。あっこの方たちは人間が一流だから、俳優としても一流なんだってつくづく思いましたね。
F―そういうこと今まで初めてだったんですか?
E―ええ。吉行さんなんてスタジオでも何回も何回もやってらして、吉行さんの持ってる透明感みたいなものは、気質の透明感なんだな、素晴らしいなと、心が洗われるような気持ちになりました。
F―今回、江角さんが演じられる早川薫という独身のやり手キャリア・ウーマンはどんな女性と思いました?
E―自分に似てると思いました。彼女も父親の存在が薄い人で、早くに母親が病気で亡くなって、父親が女の人を作って出て行った設定で、私も父を早くに病気で亡くしてます。その分彼女も片親って言われないようにがんばらなきゃって気負って東京で一生懸命仕事している。でも、ふっと「私、これでいいのかな?」なんて思う薫さんの気持ちは全て手にとるようにわかりました。そういう意味では無理なく自然に演じられましたね。ただ、負け犬組っていう言葉とか世間的な風潮については抵抗ありましたね。仕事がんばって結婚していなくても別に負け犬では私はないと思うし、なんでそういうキツイ言葉になってるのかな、と酒井順子さんの本も読ませてもらったんですが、それでも私はちょっとわからなかったんですけど(笑)。 一生懸命やってればそれでいいと思うんですけど。
F―そのセリフを言うのに抵抗があったんですか?
E―負け犬組っていう言葉の持つ強さに抵抗があったっていうか・・・。でも、それも時代の流れなのでそういうセリフも心良く一回言ってみようかなと思って言ってみると、響きはキツイんだけど、薫さんはそれで悩んでいるわけだし、悩んでいること自体ステキなんじゃないかと思えましたけどね。家庭を持ちたいけどナカナカいい人がいない、とか、結婚したいけどふんぎりがつかないとか、それはみんなが思っている悩みだし。今、私は結婚しているけど、過去にはそう思っていましたし。女性にとって結婚や恋愛は命がけのことじゃないですか? そういう点、等身大の女性で、好きになりましたね、薫さんのこと。
F―私も彼女のこと好きになりましたね。ところで秋田弁は難しかったですか?
E―最初セリフにアクセント記号を書いてもらって練習してたんですけど、私も島根の人間で流れとしては、日本海側だし、ズーズー弁は似てるとこがあって途中から割と自然にできたかな、と思っています。
F―今度の『釣りバカ』は往年の松竹大船調復活に挑戦ということで、小津安二郎監督の『麦秋』の映像と設定が使われていて、江角さんは原節子が演じた役と同じセリフもあるんですよね。いかがでした?
E―『麦秋』はすごくモダンなお話なんですよ。原さんの演じる役も強さと明るさと前向きさを持った、現代女性にも通じるキャリア・ウーマンで、当時は斬新だったんじゃないかと思います。少し前だと古いけど、今は古くないという不思議な世界観の映画で。それがあれだけはっきりと(笑)オマージュされているとすごく緊張しましたね。あすこは結婚を薫さんと彼のお母さんの女二人で勝手に決めちゃうって大胆なシーンで、むずかしかったですね。でも「思いっきりやってください」という監督の指示通りに吉行さんと二人で、あまり考えたらできないので、バーッと勢いでやったって感じですね(笑)。本番は一回でOKでした。
F―役作りっていつもどんな風にされるんですか?
E―とにかく台本を何回も何回も何回も読んでる内に毎回発見があるんですよ。たとえば三國連太郎さんとのシーンで、何回も読んでる内に、ふと、あっここでは薫さんはしばらく会ってなかった父親に甘えるような気持ちでいるんじゃないか? この人久しぶりに人に甘えてるんじゃないのかな? と発見したら、三國さんとのシーンってすごく緊張してたんですけど、早くこのシーン撮りたいなって思えてきて・・・。早く撮りたいなって思い始めるのがいつ来るのか自分でも分からないんですけど、とにかく何回も何回も台本を読んでたら来るんですよ。
F―あのシーンはホロリとさせられました。三國さんてどんな方ですか?
E―ステキな方です。繊細でいまだに色っぽくて。会うだけでもなかなかお会いできない方ですからね。ほんとにそれはそれは緊張しました(笑)。
F―人生での座右の銘みたいなものはありますか?
E―人生に失敗はつきもの。失敗しても努力するのはいいけど、自分や他人に嘘をつくのはいけない。仕事や普段の生活全てにおいて。人生で人との信頼関係って宝だと思うんです。人から信頼してもらうには自分も嘘をつかない。人にされていやなことは他人にもしない。そういうシンプルなこと、子供の頃親から教わった基本的なことって大事なことなんだな、って最近よく考えるんですよ。
F―そういう考え方は最近するようになった?
E―うーん。結婚したり、30歳すぎて誰がどう見ても大人だろって時に20代はごめんなさいで済んだけど、30代ってあんまり軽く謝っちゃいけないな、と思うようになって。謝る前に自分が精一杯やれたかどうかを試される時でもあるし、逆に言うと30、40代って一番自分を生かせる時でもあると思うんですよ。たった一度の人生なら今、試練の時でもあるし、自分の実にもなる時なので仕事にも家庭においても自分なりに精一杯やれたらいいなと思っています。
F―そのためになにか努力してることはありますか?
E―してますよ。たとえば体のこと、食べ物のこと。自分で食材を吟味して自分で考えて作って家族でじっくり食べる。体が怠けないように動かす。そういう基本的な生活って私は一番大事だと思うので気をつけていますね。
F―確かにそうですね。じゃあ、最後に『釣りバカ日誌』について一言お願いします。
E―はい。人情ってすごく大事だと思うんです。古い言葉だけど。人と人が支えあう。一人では生きていけないし、親や兄弟と離れた時に他人から支えてもらうことってたくさんあると思うんですね。そういう人情がぎっしり詰まった作品。今の日本にとっても大切な作品だと思うし、若い人に観ていただきたい。女性は実は社会を底辺で支えている底力で、女が幸せだったら男の人も幸せだと思うし、女の人の笑顔ってのは人をハッピーにする。料理をしたり、おいしいねって食べることが幸せにつながるんじゃないかと思う。女の人は働くことも大事だけど、やっぱり女にしか出来ない、すごくステキな仕事があるんだよってことを、この映画を通じてちょっとでも伝えられたらなって思いますね。
F―ありがとうございました。
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「釣りバカ日誌15 ハマちゃんに明日はない!?」 松竹) 監督/朝原雄三 脚本/山田洋次、朝原雄三 出演/西田敏行、三國連太郎、浅田美代子、江角マキコ、 筧利夫、吉行和子、笹野高史、奈良岡朋子 8月21日から全国松竹系劇場にてロードショー 配給=松竹
ストーリー スーさんこと鈴木一之助が社長の鈴木建設にも時代の波か、人事制度改革を導入することになり、経営コンサルタントがやってくる。敏腕女性経営コンサルタントの早川薫は、テキパキ意見を言うが、社長はあまり乗り気ではない。その頃ハマちゃんこと浜崎伝助は人事改革のことなど露知らず、秋田へリフレッシュ休暇と称して勝手に釣り旅行に出かけていた。その道中、秋田の実家へ帰省する薫とハマちゃんはひょんなことから知り合い・・・・。
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| 文・取材/一宮千桃 |
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