
「踊る大捜査線」の人気脚本家が映画監督デビュー。同名のコミック(「MAKOTO」)が原作ながら、仕上がりは「踊る~」とは違うマニアックで静かで哀しい出来。映像や小物、衣装、演技と凝りまくっているが、それ以上に映画として及第点の面白さだった。謎解き部分や泣けるシーンもあって、ただの趣味的作品ではなく、娯楽作(異色の)として仕上げていることもこの人の巧いところだろう。長身で、サバサバとした語り口の君塚監督に初監督の感想など語っていただいた。
F―(以下F)君塚さんはずっと脚本家としてやってこられたわけですが、最終的に映画監督は目指してたんですか?
君塚(以下K)映画は高校生の頃から撮りたかったけど、脚本家として充実していたのでずっと監督になりたいと思ってたわけじゃないです。でも、10年くらい脚本家やってると 慣れてきて日々充実してこなくなるのね。挑戦しなくなる。そんな時に映画のお話いただいて、これは毎日ワクワクドキドキできるかな? と監督に挑戦してみたんです。
F―初めての監督でとまどったことは?
K―大学時代に東宝撮影所でバイトしてて、現場のこと自体は分かってたのでとまどいはなかったんですよ。でも、今までは脚本書いて、それを監督に「さあっこれをどう撮るんだ!」って投げつけてたわけなんですが、今回は投げつけるのが自分で(笑)。今まではセリフっていっぱい書いてたんですけど、いざ冷静に監督として君塚良一が脚本を分析すると、意外なことにセリフをどんどん切っていったんですね。これまで自分の脚本のセリフを監督が切ったりすると怒ってた(笑)んだけど。これが切れるんだな。セリフで表現せずに、それを映像で表したり、演技で置き換える。そういうことが分かってきて自分で平然とセリフを切っていったんだね。それはとまどいと言うより、自分で驚きましたね。
F―映像で見せていく映画ってむずかしいのでは?
K―うん。今の映画は基本的にセリフで押しちゃう映画が多いと思うし、僕の作品ももっとアップで撮るべきだしね。でも、僕が好きな映画とか、撮りたい映画って映像にこだわって、映像で何かを伝えるって映画で、それに挑戦したんです。たとえば「僕は悩んでるんだ。どうしたらいいんだ」ってセリフで言わせる代わりに風を吹かせたりして内面の動揺を描くとかね。
F―お好きな映画ってたとえば?
K―70年代、高校生の頃に見た日本映画ですね。斎藤耕一監督の「約束」(72年)、神代辰巳監督の「青春の蹉跌」(74年)とか。どちらも静かであるってことです。登場人物の後ろで芝居を客観的に撮って、物語の結論を出さずに観客にゆだねる。想像させる。役者に大きな芝居をさせず、自然な芝居をさせる。だけど、映像にはこだわっているというね。
F―今回の映画化作は郷田マモラさんの同名コミック「MAKOTO」が原作ですけど、原作に共感したところは?
K―この原作はプロデューサーからの提案なんですけどね。「踊る~」もそうなんだけど、僕は専門的な仕事をプロフェッショナルたちがワイワイ雑談しながら手を抜かず集団でやっている、というのはわりと得意な分野なんです。この原作も監察医たちが霊が見える真言(マコト)を中心に事件を解決していったりしてます。それともうひとつ気に入ったのはラブ・ストーリーの部分です。マコトと奥さんとの間のラブ・ストーリーを僕なりのラブ・ストーリーとしてキチンと描けるチャンスだと思ったんです。僕なりというのは、ラブ・ストーリーというのは、ただ愛は美しいとか、愛は信頼を育む、とかだけじゃないんですね。愛は美しいけど、はかないし壊れる。人を信じることは素晴らしいけど、人は人を平然と裏切るとかね。そういうとこをキチッと描いてこそラブ・ストーリーだと言えると僕は思います。世の中の多くの愛は成就してないわけですから。この原作はそこを描ける話だと思ったし、まさにそういう風に作っていきました。
F―マコトと奥さんとの関係はこの映画のミステリーでもありますね。幽霊が出てくる映画ということで映像も「銀のこし」という特殊な現像方式を使って印象深いです。CGも使ってますね。
K―幽霊はリアルな霊にしたかったので人間をそのまま立たせてるだけで、その前の闇を深めるためにCGを使ってます。銀のこしは現実の世界とは違う世界に観客を連れていきたかったので色が褪せて、コントラストがきつくなる現像法を使いました。あと、監察医である東山紀之さんたちが着る白衣も黒にして、ごついプロテクターみたいなデザインを特注で作ってもらいました。それから画面の中に写りこむ看板の文字なんかはCGで消しています。品がないし、この映画はリアルに時代を描くものではないし。いつの時代? 場所はどこ? 現実? いや、すべてが幻かも? と観客に思ってもらうのが狙いですから。
F―事前に監察医の方に取材されたそうですが、なるほどと思ったことはありましたか?
K―今回の映画のテーマでもあるんだけど、監察医は生と死の間の境界線に立っていて生者と死者の間を取り持つ。生者の苦労と死者の尊厳を受け止める人間なんですね。まあ、言えば牧師さんみたいなもの。死体はほんとに思いを語ってるってことが確信できましたね。監察医の方は自殺か他殺か直感的に分かるみたいですよ。
F―そうなんですか。君塚さん自身勘は強いほうですか?
K―僕は勘は強くないんですが、運命論者です。世の中で起こることには偶然はない。すべて意味があると思ってます。しかたない、とね。こういう仕事やってるとそうなりますね。だって一生懸命やっても支持を受けないことはあるし、視聴率悪かったのは裏で野球中継があったからしかたないとかね。
F―君塚さんは性善説を信じているそうですね?
K―ええ。僕は自分のドラマでもそれをメッセージとして訴えてきたし、それが自分の役目だとも思ってきました。しかし時代がそうじゃなくなってきた。自分が40歳過ぎたということも関係あるかもしれないけど。90年代に入ってコミュニケーションが失われ人と人との関係が希薄になってきて、虚無の時代になった。一人一人が何も考えず、批評も想像もせずに生きている。そんな時代に一方的に人間は素晴らしい、なんてメッセージを与えてもダメだろうなあ、と。だからこそ本作では真実をバアーッと鏡のように見せる方法をとったんです。その方がリアルだから。
F―こんな時代にはどうすればいいのか、考えはあるんですか?
K―わからない。この映画も結論はないんですよ。人はひどい、とも言い切ってない。希望は少しあるけど・・・。僕が作品を作るのは、「これはなんだろう?」って疑問があった時に作るんです。作品がし上がった時に結論が出ることも、出ないこともある。これは出なかった。人はこうである、というのは出なかった。だからこそ、別の題材でまた追求していくんだろうけど。
F―答えはあるんですか? ご自身の中に。
K―わからない。もしかしたらこの脚本を書いていた時、僕は少し絶望していたのかもしれない。それが映画に反映されたのかも。もう少ししたらこんな時代にも出口があるかもしれないと思うかもしれない。そういえば「MAKOTO」の後で書いたドラマ「さよなら小津先生」は希望を書きましたね。知らない人が助けてくれるという結論でした。その時はそういう思いだったんでしょうね。それに、これからも「踊る~」みたいな作品も書きますし、すべて真実を暴くみたいな苦いものばかりを書くってわけじゃないんです。
F―作品にその時々の気持ちが出てしまうんですね。
K―嘘つかないでものを作るとそうなりますね。
F―なるほど。脚本家として日々心がけていることはありますか?
K―脚本家って基本的に一人でする仕事なんで、いかに自分をコントロールできるかが大事なんです。自分を追い詰めて力を発揮させられるか。自分を管理しなくちゃいけない。そのためには妥協しないとか、自分の好きな題材を選ぶとか、生活のためだけで仕事を引き受けないとか、ですね。
F―萩本欽一さんに師事されてたそうですね?
K―もともとコメディが好きだったのと、先輩に「脚本をやりたいんだったらまずマスコミに入れ。バラエティやりながらでもドラマの勉強はできる」と言われて萩本さんを紹介されたんです。パジャマ党という作家集団で、すぐに仕事があってバラエティを書いてました。そこには5、6年はいましたね。萩本さんから学んだことは笑いの質です。品のある笑い。プロなら下ネタやダジャレだけじゃなく、脳の中でクスッと笑うようなものを目指せと。人をきちんと描いて、本人は大真面目なんだけど、傍から見たら可笑しいってのが一番のコメディだから、そこを突き詰めなさい。笑いをバカにするな。深いんだってことを 学びました。
F―「MAKOTO」にも笑えるとこがありますよね。
K―(笑)サービスで。どうしても体質的に入れちゃうんですよね。
F―じゃあ最後にこの映画についてひとこと。
K―物語としてはいろいろ事件も起きて飽きさせないし、人間の持っている善と悪の両面性を描いて、ラストの結論は出していない。いろいろ想像して考えて見てもらえればいいですね。
F―ありがとうございました。
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「MAKOTO」(2005年松竹) 監督・脚本 君塚良一 原作 郷田マモラ 出演 東山紀之、和久井映見、哀川翔、室井滋、ベッキー 2月19日から全国松竹系劇場にてロードショー
ストーリー 大学の法医学研究所に勤める監察医・白川真言は霊が見えるという特異な能力を持っていた。彼はいつどこでいても、霊たちのこの世へ残した想いを聞かされる日々だった。そのことに苦悩する真言に妻の絵梨は「声を聞いてあげなさい」と優しく諭す。しかし、その絵梨も半年前に交通事故で死んでいて、真言は自分の部屋に立ちつづける絵梨の想いを聞けないでいた・・・。 |
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| 取材・文/一宮千桃 |
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